5. 視覚芸術と錯覚
錯覚の科学 ('14)
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5-1. ルネッサンス絵画における錯覚
ゼウクシスとパラシウスの技比べ(大プリニウス『博物誌』):画術が詐術でもある
トロンプ・ルイユ:だまし絵(絵画上に見えるハエやカタツムリなど)
だまし絵のハエは15世紀初期ルネッサンスに続々と登場する ex. カルロ・クリヴェッリ《聖母子》
マザッチョの壁画《聖三位一体》(フィレンツェ, サンタマリアノヴェッラ聖堂):消失点を絵を見るものの目線に合わせる
フランチェスコ・デル・コッサの《受胎告知》:写実的な描写、カタツムリのトロンプ・ルイユ、マリアとガブリエルの間の円柱が受難を暗示
5-2. まなざし
マザッチョ《キリストの磔刑》:本来は仰視されるもの。鑑賞者の視角を前提にイメージを補正。
ミケランジェロ《ダヴィデ》:頭が大きい。仰視されるもの。仰ぎ見る側の身体(視線)が取り込まれた自然主義が優先されている。
5-3. ソット・イン・ス
ソット・イン・スの天井画:イタリア語で下から上へ。円形天窓など。
クアドラトゥーラ:実物と見まごうほどの視覚効果を与える遠近法。ソット・イン・スから一歩進んだ技法。17世紀バロック時代から大きく流行。ex. サンティニャーツィオ聖堂のトロンプ・ルイユのクーポラ
5-4. 建築と錯覚
先細りで長く見せる建築
スカラ・レジア:バチカン宮に造営した大階段。ベルニーニ作、実際よりも長く見せている。
スパーダ宮の柱廊:ボッロミーニ作、実際よりも長く見せている
スカモッツィの舞台装置
末広がりの効果
ミケランジェロのカンビドリオ広場
ベルニーニのサン・ピエトロ広場
5-5. 筆致と色彩
ティツィアーノ《アレティーノの肖像》:着衣の光沢は近くで見るとほとんど一筆書き。ルネッサンス期
一気呵成な筆致(ひといきに書き上げること)
19世紀の印象主義絵画:クロード・モネ、オーギュスト・ルノワールなど。
筆触分割:色を混ぜると色調が濁り重くなるが、鮮やかな絵の具を短い筆致で併置していけば彩度を保ったまま、モザイク状の画面が生まれる
視覚混合:筆触分割されたモザイク状の画面は、距離を取るとモザイク画のように浮かび上がる。
新印象主義:スーラのように色斑を一層制御させた点描に置き換えた
筆触分割や視覚混合は20世紀のフォービスム、キュビスムなどに取って代わられることになったが、ディスプレイ・プロジェクタなどの出力に活用されている
5-6. 鑑賞の環境・条件
ボンペイの壁画:絵画を修復する際に欠損部に施された補彩。離れてみれば全体のイメージが掴みやすく、近くで見ればオリジナル部分との区別が可能。20世紀にローマの修復研究所で盛んに用いられた。
パリのオルセー美術館:壁面を白からグレーに一新。相対的に作品画面の明度・彩度が高く感じられる。
5-7. おわりに
20世紀は知覚心理学の知見を援用し多様化
マウリッツ・エッシャー:不可能図形や地・図の反転イメージ
ヴァザルリやライリーら:オプティカルアート
高松次朗:西洋絵画の写実を支えるシステムをそのまま物質化
インスタレーション(空間造形)と錯覚
ジェームズ・タレル:《Blue Planet Sky》天井の抜けたアトリウム風の空間。